新刊チェック(26/03/01-07)&お知らせ

嫌いなまま助ける、嫌いなまま共に生き延びる
本屋lighthouse 2026.02.11
誰でも

選挙期間中に印象的だったのは、「投票用紙2枚ともに高市さんの名前を書いた人がいる」という旨の投稿が流れてきたことでした。私たちがすべきことは、次の選挙までにこの人が必要な知識と情報を得られるようにすること、つまり自分の意思がちゃんと反映される投票行動ができる権利を取り戻すこと、にあると思います。

毎度ながらオーウェルの『1984年』を参照しますが、作中世界にはプロールと名指される各種貧困状態に陥っている下層民が存在します。しかし独裁政権はプロールのことを脅威には感じていなくて、むしろ都合のよい「駒」としか考えていません。なぜならプロールは愚かで、知識もなければなにも考えることもできないから、政権に楯突くことなどあり得ない、そう考えられているからです(ゆえに可能な限り多くの人間をプロールの状態にしたいわけですね)。

『1984年』の理論に則って考えるなら、高市早苗という名前を投票用紙2枚ともに書いてしまった人は、本人は高市さんや自民党を応援しているつもりでも、肝心の高市さんと自民党はその人のことをただの「駒」としか考えていません。どうでもよい愚かな存在だから、無効票となってしまうことを指摘することすらしなくてよい、そのように判断されたわけです。自分を応援するはずの1票が無駄になってしまうのにもかかわらず、それは大したことではない。そのように見放された存在であるように、私には思えて仕方がありませんでした。

政治がなにをやっているのか、逆になにをやっていないのか、これからなにをしようとしていて、なにをしないでいいと考えているのか。そのようなことをデマや嘘や誇張などで「ダメにされてしまった」情報ではなく、真の意味で正しい情報を手にしたうえで、自分で考えて日々の生活をする、選挙のときには投票する、その権利と環境を私たちは取り戻す必要があります。

私たちの目の前にいる人は決して「敵」ではありません。独裁を望む権力保持者によって、敵どうしになるように仕向けられているだけです。私たちが闘うべき相手は人ではなく「状況」。真の意味で正しい情報を手にすることができない状況、知識を得たり丁寧に考えたりすることができない状況、他者を攻撃したり苦しんでいる他者を見ることでしか幸福を感じられない状況、その状況こそが、独裁を望む者が最も欲しがる素材です。

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と、各種SNSに投稿したわけですが、こちらではもう少し踏み込んで書いておきます。

高市早苗と書いた用紙を2枚投票した、という人がいるという情報を目にして「いいぞその調子だもっと書け」とか思ったり発信したりした人は、つまるところ『1984年』におけるビッグ・ブラザー党員たちと同じ思考回路だということです。反省しろ。

我々が目指すべきこと、つまりリベラルで自由が保障されていて権利が等しくあって云々という状況は、誰に対してもそうあるべきであって、投票用紙にどのように名前や政党名を書けばよいかすらわからない状態に「陥っている」人がいるのであれば、その人に対してこそ正当な知識や情報を保障するのが道理でしょう。少し考えてみてほしい、そんな状態にある人が自民党やら参政党やらがやっていることやろうとしていることを「適切に」把握している可能性は低く、YouTubeなどからなにか誤った情報を得てしまった状態で投票をしている可能性のほうが高いはずです。少なくとも、そのように仮定して、愚かで改善の見込みもないどうしようもない存在であるとして放置するのではなく、自分が正しいと思う知識や情報を真剣に渡したほうが、よい結果になるとは考えられないのだろうか。申し訳ないが、私はかなり怒っている。

そもそも「リベラル・左翼」「保守・右翼」などと自身/他者をラベリングして、自分と異なるラベルを持つ存在を「敵」とみなす思考方法自体、『1984年』の理論で考えれば独裁者にとって好都合な「民衆が敵どうしとなって憎み合ってくれる」状況を作り出すのにうってつけで、避けるべき思考方法&状況なのではないでしょうか。

自民党を支持している人を憎むのではなく、自民党を支持してしまうに至るその背景=状況を「どうにかすべきもの」として捉え、その改善に向けて動くべきなのではないか。

排外主義に賛同する人を憎むのではなく、排外主義に賛同してしまうに至るその背景=状況を「どうにかすべきもの」として捉え、その改善に向けて動くべきなのではないか。

YouTubeやSNSで出回っているデマ情報に踊らされてしまったがゆえの支持なのであれば、支持者を憎んだり馬鹿にしたりする前にすべきことは、デマであることを真剣に伝えたりそもそもそういう動画が出回ったりしない環境を構築する方法を考えたりすることのはず。

自分自身の生活苦があるからこそ「外国人に回す余裕なんかない」という意識が生まれてしまったことが支持の理由なのであれば、支持者を憎んだり馬鹿にしたりする前にすべきことは、外国人に回す分を減らしたところで根本的な解決はしないことやそもそも現行政府の経済政策の考え方が間違っていることなどを説明することのはず。

私たちのほうが「正しいこと」を知っていると考えているのなら、すべきことは罵倒でも嘲笑でも見放すことでもない。その「正しいこと」を共有することが「正しい」在り方なのではないのか。クソな政治に馬鹿にされているのは、コケにされているのは、私たちリベラル・左派だけではない。真の意味で正しい知識や情報を得る手段を奪われ、時間をかけて自分で考えて答えを出す余裕を奪われ、同じように苦しんでいる他者から「奪う」ことでしか自分の正当な権利を取り戻す方法がないと信じ込まされている、この国の大多数を占めるマジョリティもクソな政治の被害者だ。

そこと手を組まなければ現状は変えられない。好きになる必要なんてない。嫌いなままで構わない。嫌いな相手でも権利を尊重することはできるし、そうすべきだと訴えているのはほかならぬ我々自身だ。高市早苗にだって人権はあり、抱え込まされたあらゆる苦悩を解きほぐされるべき対象だ。こんなクソみたいな政治をすることでしか得られない快楽があり、それを欲してしまわざるを得ない状況にいるのであれば、高市の生きている環境は地獄そのものだろう。私は高市(やその他大勢の類似した政治家・権力者・一般市民)が嫌いだし憎んですらいるかもしれないが、だからこそかれらを救わなければならないと思っている。救うつもりだ、と宣言して向き合わなければならないと思っている。

「敵」認定するということは、「救わなくてよい存在」を作り出すということだ。「私はあなたを救うつもりがない、地獄にいたままでいればいい」と言われたとき、ひとはその者の話に耳を傾けるだろうか。共に生きていこうと思うだろうか。我々はどうやったって「共に生きていく」ことからは逃れられない。まったく話が合わない相手、理解できない相手、嫌いな相手、憎い相手、死んでほしい相手、どんな相手であろうと共に生きていかなければならない。共に生きていかなければ、いずれにせよどちらも死ぬだけだ(し、どちらが先に苦しんで死ぬかというクソな争いをすることにしかならない)。自らが生き残るために他者を救う。ひとりでは開けられない缶詰をふたりで食べるために、目の前のクソ野郎を内心では「死にやがれ、少なくともいつか殺す」と思いながら救う。そして生き残ったふたりで、ひとりでも開けられる缶詰をたくさん手に入れられる「状況」を作り出す。私たちに必要なのはそういう共闘で、共生だ。ひとりでも開けられる缶詰がたくさんあれば、奪い合う必要など生じない。嫌いな相手と無理して関わる必要もなくなる。

(念のため書いておくが、これは「差別を許せ」みたいな話ではない。差別や権利侵害や加害行為などなどを許さないことと、それらを行なった者を「敵=救う必要のない存在」として認識せずにいることは、両立するし両立させなくてはならない、という話をしている。私は「状況」が人を差別やら加害行為やらに向かわせると考えているため、その「状況」を作らないことを意識したいと考えている。逆に言えば、「状況」がそろえば我々は例外なく差別や加害の行為主体になる、ということだ。だから闘うべき相手は「状況」であって「人」ではない。もちろん「属性」でもない)

(さらについでに書いておくと、私は自分に対して「リベラル/左派」といったラベリングはしていない。「だいたいの他者からはそう見られているだろう」という認識でもってそのように“他称”しているという感覚が実態に近く、同様に「日本人」だとか「男性」だとかのあらゆるラベリングも「そう見られているであろうから」という理由で“他称”している。という情報をもとに「本当の関口は日本人男性ではない(のかもしれない)」という予測をするかもしれないが、本当にどうでもいいから、勝手にすればいいと思っている。いつだって私は私であなたはあなただ。そこに優劣はない。だから本当に、「みんな」と幸せに生きたいと思っている。この「みんな」の中には当然、高市もいる。差別を撒き散らすクソ野郎もいる。高市の名前を2枚の投票用紙に書いたあなたもだ)

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アドリアン・ダウプ『「キャンセル・カルチャー」パニックーーパニックを生み出す言説空間』(青土社)刊行記念イベント 「「キャンセル」という言葉があぶり出すもの、隠すもの」は無事終了しました。アーカイブはこちらから購入可能です。北村さん企画、次回は3月29日(日)にキャロル・J・クローヴァー『男と女とチェーンソー』(訳:小島朋美/晶文社)で開催予定します。詳細はほぼほぼ確定しているので、あとは告知するだけ(私のターン!がんばって!)。本は今週末(14日)に入荷の見込み!

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スナック社会科vol.15「風雷社中クラファン応援企画・ガイドヘルプってなんだろう」も無事終了しました。アーカイブ購入はこちらから。大事な話、たくさんしてました(私は体調不良で半分意識が飛んでいたので再視聴したほうがいい)。

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新刊チェック(26/03/01-07に刊行予定の本) *入荷は少し遅れます

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白水社 熊 人類との「共存」の歴史[新版]

9784560025840

“幅広い文献を渉猟し、熊にまつわる伝説や言い伝え、さまざまな時代の証言や観察記録、(ときに奇抜な)学説が紹介され、時代ごとに人が熊をどのように見てきたかを概観することができる”。石川直樹の帯文には“二分法では永遠に解くことのできない熊と人間との深い関係性”とあり、これは人間どうしにも適用できることだよね、とあらためて強調しておきたい気分。敵か味方か、という状況を作った時点で権力保持者の勝ち!(だから権力保持者とそうではない者、という二分法を作らないことも大事になってくる。アナキズム!あらゆる権力を拒否しよう!)それはそれとしてこのクマの本はとても読みたい。

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竹書房 本好きな子どもの育て方

9784801948303

「この本を読んでいるということを、子どもにバレないようにすること!」と書いてあるに違いない。書いてあってほしい。親の本棚にこれがあるのを見つけたらその子どもは余程の捻くれ者でなければ本が嫌いになるぞ!私はサッカーボールを追いかけてたら本が読めるようになってました。

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吉川弘文館 〈主婦〉という職業

9784642084925

“家庭を運営し家族のケアも担う神聖な仕事と賞賛されながら無償の家事労働を強いられてきた女性の歴史をたどり、100年前に国内外で物議を醸した「主婦の給料」論争を掘り起こす”。これは力作&良書の気配!46判で200ページちょっとというのも、専門書すぎない物量を期待させますね。

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春風社 近代日中女性による「非体制」の模索

9784868161240

“1920~40年代において日中関係の悪化から距離を取り、改善の道を探ろうとした女性たちの動きを「非体制」の模索と位置づけ、その意義と限界を論証。月曜クラブと一土会という集まりを中心に、困難な社会情勢のなかで、女性運動や国際関係・政治について、日中の女性たちが積極的に話し合い、交流を重ねてきた道を辿る”。こういう人たちがいたこと、それを知れることは確かな希望ですね。高価格帯の学術書だけど、買える人は買って、共有しましょう。図書館リクエストもどんどんしていこう。

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春秋社 野球の美学

9784393324233

“なぜ我々は野球に「美しさ」を見出すのだろうか。そもそも、スポーツにおける「美」とは何を指すのか。本書は、野球というスポーツが持つ独特の美的価値を多角的に論じる試みである”。4-6-3か6-4-3かどっちが美しいか、みたいな話ですねわかりますとてもよくわかりますこれはおれが読むべき本だあああああ!!!!!

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淡交社 漫画の中の漢字を学問する

9784473047038

“そこでは「当て字」「難読漢字」「独自の読み」など多様な漢字表現が展開され、日々更新されています。日本人にとってなじみ深い「漫画」の漢字表現の多彩さ、学問的な面白さを論考”。これまた細かいところに光を当てる面白いやつだ……。

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河出書房新社 黄金仮面の王 文庫

9784309468303

“金の仮面を纏う病める古代の王、遥か未来の燃え盛る終末世界……ボルヘスや澁澤龍彦に影響を与えた〈象徴主義世代の中で最も優れた短篇作家〉待望の文庫オリジナル傑作選”。なんだか気になる1冊ですね。ここからは私信です。“澁澤龍彦”。

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今週のお知らせコーナー

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大垣書店が

大垣書店が運営する「うすもの談話室」の1コーナー「新刊さんいらっしゃい」にて、本屋lighthouse出版部より刊行の仲西森奈『ホームページ』に関連したインタビューが公開されます。

うすもの談話室
@usumono_ogaki
2/13(金) の #新刊さんいらっしゃい は #本屋lighthouse 『#ホームページ』ゲストは仲西森奈さんと担当編集関口さん。そして今回の聞き手は弊社大垣書店スタッフに協力いただきました✨作品と著者の距離感、学ぶことの多い回でした!#うすもの談話室 #大垣書店 x.gd/jVYhe
2026/02/09 18:30
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2月13日(金)19時、Spotifyにて公開とのこと。上記Twitterが見れない方はこちらのリンクから(まだ前回の分までの更新だけど、リンクは辿れるはず)。丁寧に読まれてほしい1冊になっておりますゆえ、このインタビューも参照してもらえるとありがたいでございます!

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①定期読書会&イベント関連のお知らせ

・2月21日(土)14時〜16時 高橋くん読書会

・『物語とトラウマ』ゆる読書会はいったん終了。一度別のワークショップ的なものを挟んでから、別のテーマで読書会をスタート予定です。

②〈特別イベント関連〉

・〈出店イベント〉2月28日(土)11時〜17時、志津スモールBOOKフェス!@ときわ書房志津店に出店します。詳細はこちら。この日は幕張のお店はお休みです。

・〈出店イベント〉3月7日(土)11時〜15時、第23回西千葉ブックマルシェ@西千葉HELLO GARDENに出店します。詳細決まり次第またお知らせします。この日は幕張のお店はお休みです。

・〈出店イベント〉3月20日(金)〜21日(土)両日13時〜20時、北千住BOOK SODOM@北千住BUoYに出店します。詳細はこちら。主催の遊星Dによる書店演劇「書店からきた女」も開演。イベント全体は22日も開催していますが、ブース出店は20日〜21日です。幕張のお店はお休みです。

・〈店頭フェア開催中〉「Write down your voice.」という日記プロジェクトを始めました。この世界を生き抜くための日記。そしてこの世界を変えるための日記。それを私たちの「声」で作っていくプロジェクト。店頭に設置した共有の日記帳に「あなたの日記」を書き込んでいく試み。気軽にそして真剣に、ご参加ください。詳細はこちら

③読書のSNS&記録アプリ「Reads」のアカウントも取得、運用しています。個人的に読んでいる本を中心に紹介、ただただ楽しくやっております。ウェブストアでは「最近Readsで紹介した本」カテゴリも作りました。現状iOSのみですが、Androidにも対応予定とのこと。見るだけならウェブブラウザでもできるので、ぜひチェックしてみてください→本屋lighthouseのページ

④ウェブストアを移転しました。新ストアはこちらです旧ストアは完全に停止しています。TシャツなどのグッズはSUZURIで販売中です。

ブルースカイのアカウントを開設していました。なお、Twitterの運用はほぼ終了しました。緊急連絡やDM利用などは続けます。あと、Twitterでしか告知ができない/していないアカウントに関わる告知なども、当面の間は続けます。通常のお知らせ系はほかSNSにて同時並行的におこないますので、ご都合よろしいものでチェックしてください。各種リンクはこちらにまとまっていますので、よーちぇけらー٩( ᐛ )و

⑥2024年5月より営業時間を変更しました。土日祝日はこれまでどおり12時〜19時での営業ですが、平日の営業時間を14時〜21時に変更。いままでより2時間後ろにずらします。会社帰りにも寄りやすくなると思うので、ぜひ帰り道に……。

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出版社の方へ:書評や本の紹介記事をこちらのレターにて配信することが可能です。執筆条件はこちらが叩き台になりますので、内容含め気軽にご相談くださいませ。

この新刊チェックは無料にて配信していますが、投げ銭はいつでも大歓迎でございます(50円以上から設定可能ですので、気前が大変よろしいときなどにこちらからお願いします)。

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