忘れていくものの記録260629〜0712
6月29日(月)
9時くらいに起床。起きてからもだらりだらり。昼過ぎからようやく始動。したいという気持ちだけがあった。
From the verge of the water the land rises uniformly on all sides, with green and sloping acclivities, until from gently rolling hillsides and moderate elevations it insensibly swells into lofty and majestic heights, whose blue outlines, ranged all around, close in the view.
水と陸の境界あたりから一様に両側の土地は隆起しており、緑に覆われた上り傾斜のそれは穏やかな起伏のある丘の中腹から高台まで伸びていて、堂々と聳え立つ山の頂へ向かってわずかばかりの成長を続けている。その輪郭は青く、全方向に伸び、すぐ近くにあるようにも見える。
今週も遅めの昼ごはんでガストに行き、本を読み、志津へ、というルートを選択。持参した本はW・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』(白水社)。多和田葉子の次にこれに行き着くのは必然か(映画『医の倫理と戦争』の影響も多いにあるだろう)。アウステルリッツが「私」に対して使う言語を英語に切り替えてからの態度の変化は、多和田が『白鶴亮翅』で描いていたオリオンという歯医者の造形に引き継がれている気がする。オリオンは英語で話すときは機嫌がよく見え、ドイツ語で話すときは機嫌が悪く見える、そういう描写がされていた記憶がある。ひろこさんはごはんを食べているときは機嫌がよく見え、仕事をしているときは機嫌が悪く見える。
6月30日(火)
起床に失敗。おふとんでスマホを開くと父から草野球中止の連絡が入っている。ここ数日の雨でグラウンドが乾いていないのだろう。となると映画『急に具合が悪くなる』を観に行けるということだ。ひろこさんに打診。11時からの回は難しそうなので、イオンモールの映画館でやっている夕方の回を狙うことに。ならばもうモールへと向かってしまって、昨日同様ごはんを食べつつ時間を潰しつつがいいのでは、となり早速移動。ことがスムーズに動いている気がしたが、もう昼だった。
『急に〜』は濱口にしては短い3時間ちょっとの映画だが、ひろこさんからすると十分に長いらしく、眠気と尿意とのたたかいになる可能性も高いという。映画は寝て起きてからがゴールデンタイムという濱口理論をいくつかの映画で実践済み(しかし実感はしていない)のひろこさんが、ついに濱口映画で実感こみの実践を果たせるかもしれない、という期待も持ちつつ、とはいえちゃんと観たいからコーヒーも飲んで抗体を作っておこう、という話をしたのはどのタイミングだったか。
いま思い返すと、とアウステルリッツは語った、あのふたりは、自分たちの心の冷たさによってゆっくり死んでいったのかもしれないという気がします。グェンドリンがなんの病気に蝕まれていたかは知りません、おそらく本人も知らなかったでしょう。いずれにせよ、病気に対してなすすべのなかった彼女のただひとつの奇体な欲求は、安物のタルカムパウダーのような粉を日に何度となく、おそらく夜もだったと思いますが、全身にはたくことでした。(p.60)
状況はまったく違えどなぜか思い出されたのは『薬屋のひとりごと』だった。今朝は『ダンシングイズワールド』のアニメを観てうれしくなり、その居心地のなかでイオンモールを練り歩き、サンマルクで映画までの時間潰しをした。ひろこさんはバナナ入りの期間限定チョコクロを食べこぼし、ベージュ色のシャカシャカパンツの左腿を盛大にチョコで染めていた。恥ずかしい恥ずかしい言いながら映画館のある3階まで移動。
映画は素晴らしかった。マリー=ルーと真理が出会い、そのままお互いのこれまでを話し始め、しかし急に夜番に入ったりナースコールで呼ばれたりして話が途切れ、にもかかわらずお互いの話がまた続けられるあの夜が、どことなくアウステルリッツの語りを思い出させるものだった。というのは瑣末な感想で、本編ど真ん中の感想を書き始めると1万字くらい行く気がするのであらためて書くとして、ここではひろこさんの具合が急に悪くなったことを書いて終わりにしておく。エンドロールが終わる気配を醸し出した瞬間にひろこさんが変な動きをし、明転すると死にそうな顔のひろこさんがいた。どうやら寝不足だったところにコーヒーでそれを誤魔化し、そのうえ映画が面白かったがゆえに集中状態を維持してしまったことで、映画終盤で限界を迎えたとのこと。3時間もあるとおしっこどころかうんちもしたくなるかもね、急にうんちがしたくなる、などとしょうもないことを言っていたのはいつのことだったか。急に具合が悪くなったひろこさんを連れて外に出る。走って帰ろうと思っていたため1台だけ持ってきていた自転車にひろこさんを乗せ、映画の重要テーマだったユマニチュードの「立つ(そして歩く)」を雑にもしくは強引に実践するかのように、自転車に乗ったひろこさんの背中をバックパックもろとも掴みつつ押して並走するスタイルで家まで帰った。ひろこさんはすぐに寝た。私はごはんを食べに一度外に出て、帰宅、シャワー、就寝。