「転売目的での大量購入」という社会問題

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本屋lighthouse 2026.07.01
誰でも

2026年7月1日(水)より、全国のフェア開催書店(新刊)にて「集英社 夏のコミックスフェア(通称「ナツコミ」)」の2026年版が開始しています。このフェアが行われているのは一部書店、特にチェーン書店などの「大手取次」経由での仕入れをしている書店で、当店のような個人経営のお店ではほぼほぼ開催されていません。

ではなぜ言及するのかというと、このフェアで配布している特典の「描き下ろしメタキラカード」を巡って、記事タイトルにも書いたように「大量購入」が多発し、その結果業務に支障をきたしているからです。

ここ数年、雑誌の付録やコミックの特典を巡ってこのような事態が生じていますが、今回のナツコミに関してはフェイズが悪いほうに変わってしまった感覚があります。いわゆる「転売屋」の動きが異常に激しく、悪質になっているからです。

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フェア特典の内容が判明してから、そしてフェア開始日までの1週間ほど、書店には誇張ではなく文字通りに「大量の」問い合わせが来ていました。配布方法は各書店に一任されているため、購入冊数に制限があるのかどうかや特典のカードは選べるのかランダムなのかどうか等々、電話やメールや店頭でひっきりなしに問い合わせを受けています。当店は冒頭に書いたように開催店舗ではないですし、HPなどを少し確認すれば「ここでは開催されないだろう」と容易に予測できるようなお店ですので(普段からこの手のフェアには関与していない/できないということもあり)、問い合わせは1件のみでした。しかし、1件でも問い合わせがあるということが、今回の異質さ、異常性を表しています。

フェア開催店舗では(今回の件に限らずここ数年ずっと)、どのように特典を配布すれば「可能な限り多くのお客さんに」「可能な限りご希望の特典を」配布できるかを考えています。お客さんの中には定期購読で毎号買っている方もいますし、作品のファンとして毎巻買っている方もいます。その方たちが特典付きの本を買えない、そして目当ての特典がもらえない、という事態になってしまわないように、あらゆる方法を考えてきました。今回もそうです。しかし、もう無理だな、と多くの書店が諦めています。なぜならこの問題は個々の書店の経営努力でどうにかできる問題ではなく、業界として対処していかなくてはならないほど大きくて深い問題になってしまっていますし、その当然の帰結として、もはや出版業界内部だけでどうにかできる問題ですらなくなってしまっているからです。以下、そのあたりについて記述します。

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転売屋の動き

各種SNS(特にTwitter/X)での情報収集・共有はもちろんですが、LINEのオープンチャットなども活用して転売グループのようなものができています。おそらくこの手のグループは組織的に行動する(つまり購入後の転売まで組織的に動く)というよりは、個々の転売をスムーズに行うために情報共有のみ組織的にやっている、というものが多いと思います。個々が店舗に問い合わせ、配布方法などの情報をお店の情報と紐付けたうえで共有する、というのが基本的な動きのようです。その情報をもとに「どうすればたくさん(特に高額で売り捌けるものが)手に入るか」も議論がされているようで、ようは「転売攻略サイト」のような状態になっているのだと推測しています。

そこで共有されている情報は、書店が回答したもの以外にも、個々の転売屋が「リサーチ」したものも含まれています。その中には「書店のレジ内部」「バックヤード」「書棚の下のストッカー」といった、店員以外は立ち入ってはならない/開けてはならない場所と思しき写真もあります。ストッカーを開けるのはわかりやすい「悪事」ですが、レジ内部やバックヤードは「見ようと思えば見える」場所にあることもあり、モラルだとかマナーだとかの防波堤が決壊している状態の転売屋にとっては「写真に撮ってよい場所」となるようです(かなりズームしているため解像度の粗い写真などもあり、ほぼほぼ盗撮の趣を呈しているわけですが……)。

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書店の状況

前述の通り、ひっきりなしに問い合わせが来ます。電話は鳴り止みませんし、直接レジに来る人も驚くほど増えます。その中には転売目的ではないお客さんもいます。しかし警戒せざるを得ない書店員は、もはや問い合わせがくるだけで(電話が鳴るだけで)ストレスを感じます。何度も何度も同じ人が来るときもあるし、明確な配布方法を伝えられないと怒り出す質問者もいます。これがフェア開始前の状況で、フェア開始後はもっと悲惨なことになります。試しにSNSで「ナツコミ」などで検索をしてみてください。開店前から並び、開店と同時に売場をダッシュする「大量の人間」を映した動画なども出ているようです。書店の従業員には女性や学生、あるいは長期雇用の高齢者も多く、男性であっても腰痛などの心身不調を抱えている人は多いです。そうでなくても、つまり超健康体の若年男性であっても、走り回る群衆の対応を上手にこなせる人などいないでしょう(そういうのはまさに「漫画の中」だけの存在です)。なにも知らずに普段通りに買い物に来たお客さんにとっても危険かつ恐怖です。

このような開店待ち&ダッシュという状況は、コロナ禍真っ只中の時期に『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』といった人気漫画が刊行されたときにも、確かに起きてはいました。しかし、今回はダッシュしている人の求めるものが違います(そのうえコロナ禍という特殊な状況でもない)。かつては「コミックそのもの(そしてそれに付随するおまけ)」が欲しいがゆえに起きていたことが、ここ数年、そして今回は特に、本そのものではなく「転売できる特典」が目的となっています。実際、上述のオープンチャットなどでは「対象コミックを500冊購入したとしてもカードを転売できれば大幅な利益になる(コミックも定価より安くすれば売れる)」といった旨の書き込みがあったりするようですし、ひどい場合にはテナント内のトイレやゴミ箱などに「コミックだけ」捨てられていることもあるようです。なお、500冊というのは打ち間違いではありません。

確かに、このようなまとめ買いがあればお店の売上にはなります。それもとんでもない額の。しかし、このような本の買われ方は明らかに不健全・不健康なもので、一過性のものにすぎず、長期的に見れば出版業界という生態系を崩壊させるものになっていると、私は考えています。従業員は当然疲弊するし(そのまま退職してしまうかもしれない)、買い占められた後に来店した事情を知らないお客さんは「品揃えが悪いお店」だと判断して来店頻度が低くなるかもしれません。売上データもバグってしまうため、「前年比」などの判断基準は使いものにならなくなります(これは出版社への影響も大きいでしょう。データとしてはたくさん買われていても、実際には読まれていないため続刊を買う可能性はほとんどありません。刷り部数の判断を大きく誤る可能性が増えてしまいますね)。

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ほかにも書きたい「ひどい状況」はたくさんあるのですが、いったんここで大事な話です。ここまで読んだ方の中には「転売=外国人」というイメージを持っている方もいるでしょう。明確に述べておきます。それは「差別」ど真ん中のイメージですので、改めてください。確かに転売をする人の中には外国人もいます。しかし、その多くは日本人です。上述のオープンチャットに書き込んでいる人が使っている言語も日本語です。電話をかけてくる人も、店内をダッシュしている人も、多くは日本人です。もちろん、見た目だけで国籍を判断することは「よろしくないこと」です(そもそも「国籍」によってなにか違いがあると考えること自体、私は「よろしくないこと」と考えています)。

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解決に向けた提案

冒頭でも書いたように、もはや書店現場での対応でどうにかできるものではありません。なぜなら「転売が容易な」あるいは「転売が魅力的な」「環境=システム」ができあがってしまっているからです。その要因はいくつかありますが、大きなものは「プラットフォーム」と「社会状況」だと考えています。以下ではそこに焦点を絞ってみます。

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転売を容易に/魅力的にしているプラットフォームを規制する

筆頭はメルカリです。ヤフオクなどもありますが、メルカリ的なものが普及して以降、明らかに状況は悪化しています。なので、そもそものプラットフォームの在り方をどうにかする、というのは当然に思いつくものです。

元々、書店は万引きに悩まされ続けている業態です。新刊本やレアな中古本が盗難され、それが中古市場で売買されてしまう。これはブックオフだけではなくメルカリでもヤフオクでも起きていたものですが、ここに「特典」が加わったのが現在の状況です。盗難品であれば(実際には逮捕は困難なのだけど)、明確に犯罪行為とわかる行為によって入手したものなので、捜査依頼は可能です。しかし購入特典は「購入したものを売っている」と言われてしまう。残念ながら購入ではなく「窃盗」で特典を入手している場合も多々あり、その場合余計に悪質なのですが、いずれにせよ特典は「買ったけど不要だから売っているだけ」というもっともらしい言い訳がしやすい「商材」です。

このような状況なので、プラットフォームを規制すればどうにかなると簡単に言えるわけではないのですが、少なくとも、現状の「野放し状態」が少しでも改善されれば、「転売で簡単に・高額の利益が出せる」という環境は維持できなくなっていくはずです。その具体的な方法まで提案することができないのは悔しいですが、三人寄れば文殊の知恵ですし、きっとベターな方法くらいは見つけることができるでしょう。

そしてこれは、換言すれば「政治・社会の問題」であるということです。プラットフォームの在り方を変えるのは大掛かりなことで、法律だったり条例だったりに手を加える必要があるということになります。国単位のものにまでならずとも、少なくとも「各種業界(出版業界以外も含めた関連業界)」が力をあわせる必要がある問題です。

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社会状況が生み出している問題でもある

という流れから必然的に導き出されることなのですが、転売問題は社会状況が生み出している問題、つまり「社会問題」です。そもそもなぜ転売をする必要があるのでしょうか。中には金儲け目的、それもほとんど「遊び感覚」でやっている悪質な者もいるでしょう。そういった転売屋はすでに潤沢な資金があったり、経済状況も悪くない場合が多い。しかし転売を「せざるを得ない」者も確かに存在しています。そしてこの転売競争に参加している者の多くが、この「せざるを得ない」状況の真っ只中に、少なくともそこに近いところにいるのだと思います。

ワンピースのメタキラカードは海外に向けて売れば1枚1万円以上にもなるそうです。1冊500円程度のコミックで1万円が手に入る。仕事で得られる賃金だけでは生活が苦しい人、家庭環境が苦しい未成年、各種の差別的な政策によって劣悪な労働環境と賃金状況に置かれている外国人労働者……etc。かれらがそこに手を伸ばしてしまうことを、私は責めることができません。この中には当然、書店員もいます。ゆえに転売屋の中には書店員と思しき者もいます。

悪事は悪事です。しかし、悪意に手を染めてしまわざるを得ない「環境」を生み出している政治があることも確かで、そこに目を向けなければ根本的な解決には至りません。先月、日本政府は「最低賃金1500円の実現」を目指した政策の優先順位を下げました。この数年、いや10年以上、税金が社会保障へ充てられる額は減り続け、代わりに軍事費への支出が増えています。そしてこの数十年間、わたしたちの実質賃金は上昇していません。物価は高騰し、賃金の上昇はそれにまったく追いつかない。その対策をまったくしない政権が居座り続けている状況を変えるということが、根本の根本にある解決策なのだと思います。

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環境=状況を変えるということ

転売問題は、社会状況とも絡んだ根の深いものです。大事なのは、誰かひとりを悪者にしないということなのだと思います。変えるべきは環境=状況。悪者にするのなら、環境=状況を悪者にするということ。

書店も出版社も必死にやっています。確かに、フェアの実施方法に関する改善の余地はたくさんある。書店としては、フェアの実施方法を書店に一任=丸投げして、転売屋対策をほとんどしようともしない出版社へ言いたいことがたくさんある。とはいえ出版社にも事情があるのだろうし、社員の中には現状を知っていてどうにもできない自分を責めている者もいるかもしれない、だからあえてここでは言及しませんでした。書店がテキトーなことをやっている例も多々ある。6月の時点でフェアを始めてしまっているお店もあり、お客さん(not転売屋)からしたら大迷惑だろう。しかし転売屋対策の一環としてこっそり始めてしまったほうが疲弊しないで済む、という苦肉の策かもしれない。そして転売屋にも色々事情があるのでしょう。

こう書くと、結局みんなに事情があって「仕方ない」になってしまうだけじゃないか、と思うかもしれません。しかしそれがまさに「社会問題」であり、個々の意識や行動を変えるだけではどうにもならない(そもそもそれを変えることがままならない)、ひどくゆがんでしまった環境=状況そのものを変えなくてはならない「問題」の実態です。だから、みんなで変えていきましょう。そのために、まずはこのような問題があるということを知ってもらう必要があるわけです。「社会問題」として取り上げてくれるメディアが必要です。「ヤバい奴がいる」というようなゴシップ的な扱いをするのではなく、「ヤバい状況をどうにかするための方法を考える」ための報道を求めています。

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以上、駆け足ですが問題提起でした。あくまでも私個人がみている景色からの問題提起なので、違った側面や事実もたくさんあるはずです。そういったことも含めて、さまざまな関係者に話を聞く丁寧な取材と、それをもとにした丁寧な報道を期待しています。何度も書きますが、社会問題として扱うこと、そして転売問題を「外国人問題」として扱わないこと、これが最低条件です。

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本屋lighthouse 関口竜平

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